歴史を学んでからじっくりと見たい
監督 Pekka Parikan
製作 1989年 3時間11分 K11
出演
Taneli Mäkelä (Private Martti Hakala)
Vesa Vierikko (2nd Lieutenant Jussi Kantola)
Timo Torikka (Private Pentti Saari)
Heikki Paavilainen (Private Vilho Erkkilä)
Antti Raivio (Corporal Erkki Somppi)
上映時間3時間を超す大作。一般的なテーマではないし、淡々とした描写はときに退屈でもあるが、フィンランドを理解するためには見るべき作品。
時代は第二次世界大戦期に重なるが、フィンランドでは当時を「冬戦争」(本作のタイトルであるTalvisota。1939.11.30~1941.3.13)と「継続戦争」(Jatkosota。1941.6.25~1944.9.19)との二つに分けてとらえている。もちろん世界史的にはToinen maailman sota(第二次世界大戦)と認識しているが、ヨーロッパ全土を戦場に陥れたドイツや、ほぼ全世界を相手にした日本の戦闘が継続していたのとは異なり、フィンランドでは短期間ながら戦闘が中断した時期があるからだ。また、同じ枢軸国でありながら、フィンランドの実質的な対戦国はソビエトだけ、と考えていい。
本作はフィンランド人向けに作られているので、彼らにとって「常識」である戦争の背景は説明されない。名もなき兵士たちがどのように戦場に赴き、最前線でどう戦ったか、いかに死んでいったかが静かに描かれる。「プライベート・ライアン(Saving Private Ryan)の冒頭のような派手なシーンはないし、開始後50分は戦闘シーンもないので、アクションを期待すると失望するだろう。しかし、兵士を送り出す家族、戦場でのいざこざ、友軍兵の死等々が抑制されたトーンで映像化されているだけに、フィンランド人であれば自分の父、兄、恋人、息子がどのような時を過ごしたかに胸をしめつけられるはずだ。80年代のフィンランド映画で二番目に観客動員数が多かったのもうなづける。
当然ながらフィンランド人の視点で描かれているので、疑問もないではない。たとえばソビエト兵はこんなに弱かったのか? 航空機、戦車を背景に圧倒的な軍事力持ちながら、ライフルおよび少量の機関銃で対するフィンランド軍を攻めきれないでいる。結局、ソビエト兵は防衛線を突破してくるのだが、その戦法は物量にまかせて突進してくるだけ。戦車は中途半端なところで帰ってしまうし、雄たけびをあげて総決起したフィンランド兵に、その40~50倍はいそうなソビエト兵は一目散に逃げてしまう。当時のソビエト兵は無理やり借り集められた人員なので士気が低く、酔っ払いながら戦場に出ていたらしいことは中山雅洋の「北欧空戦史」に記されているが、それにしてもほとんど反撃しないのはおかしくはないか。もっとも、局地的にはフィンランド軍がソビエト軍を凌駕していたこともあるそうだから、一面の真実は伝えているのだろう。
もうひとつ。映画の本質とは関係ないが、寒さを感じさせないのがやや不満。戦闘期の11月末から3月のフィンランドはまさに厳冬期だが、その辛さが伝わってはこない。一部、新緑が芽吹いてたりして、これもう4月中旬だろう、と思っちゃったりなんかもしたからなあ。
フィンランド独立100周年を記念してか、2017年に日本でもオリジナル完全版Blue-rayが発売された。邦題は「厳寒の攻防戦」と大げさだが、先述の通り、派手なドンパチはない。直訳の「冬戦争」でいいじゃないか。