冒頭から引き込まれる悲しい実話ではあるが・・・
監督 Kari Paljakka
製作 2005年 100分
出演
Hannu-Pekka Björkman (Jaakko)
Katja Kukkola (Marja)
Johannes Paljakka (Timo)
Risto Salmi (Henrik)
Mari Rantasila (Leena)
主演のHannu-Pekka Björkmanは本作で2006年度のJussi・最優秀主演男性賞を受賞した。Jussi賞というのは、フィンランド版のオスカー(アカデミー賞)のこと。主演男優賞はマッティ・ペロンパーも95年に受賞している。最優秀作品賞としてはカウリスマキの「愛しのタティアナ」、「過去のない男」、「ル・アーブルの靴磨き」の三作が有名。
主演のHannuはビール腹にハゲという風貌。くわえて眠そうな顔つきで、典型的なフィンランドの中年だ。そんなどこにでもいるような男が抑制のきいた演技をこなすので、重いテーマに一層の現実感を与え、主人公および家族の心情に思いを寄せることになる。ただ、終盤ではちょっと演技過剰にも思える。
このさえない中年男の独白で映画は始まる。自宅の駐車場に停めた車が突然炎上し、中にいた幼い息子が焼死してしまったことを淡々と語る。しばらくは男の顔がクローズアップされているだけなので状況がわからないが、カメラが引くとそれが警察署での事故報告であることが明らかになる。
その後は発火原因となった使い捨てライターに過敏になったり、食卓に亡き息子の分の皿を並べたり、奥さんは姉の無神経な態度に涙を溢れさせたり等々、地味ながら日常の細部に染みこむ悲しさが胸を打つ。これは脚本家あるいは監督に類似体験があるのか。克明な取材力あるいは想像力によるものなのか。実話に基づく物語なので「なるほど」と思う反面、ちょっとがっかりでもある。
だってそうでしょう。我々は「映画」が見たいのであって「本当にあった話」を求めているわけではないのだから。だけど、こういう副題は興業成績に大きく影響するんだろうね。中には「え~、こんなことが実際にあったのか」と驚かされるものもある。パピヨン、ミッドナイトエクスプレス、チェンジリングとか。まあ、これらも誇張・演出その他もろもろが加えられているのは承知の上だが、世間的には「演出」として評価されているので、「世の中わからんなあ」という気になって関心する余裕はある。しかし、本作程度(といっては関係者に酷だが)の悲劇はいくらでもあるじゃないか。
映画は唐突に終わる。10歳くらいの長男が森に寝転び、青空を見上げる場面が最後。あれ(事故)から1年が過ぎたことを暗示するシーンだ。少年は無表情。彼も、両親も依然として心の傷が癒えたわけではない。今後も悲しみとともに生きていかざるをえないのである。それはそうだ。近親者を亡くして、たかが一年で何事もなかったかのように暮らせるわけがない。年を経るごとに悲しみが増しても当然だ。
なかば呆然としたような少年の表情は、とにかくこうして生きていくんだな、生きていかざるをえないんだな、と自覚したかのようだ。これからも続く日常、その一瞬。同様の体験を持つ者として共感するが、その気持ちを分かち合うことはあるまい。本作では特段のメッセージを加えていないのがいい。傷を持つ者に訳知り顔のアドバイスは無意味だと知っているからだろう。
DVDジャケットが内容のすべてを語っているような作品。けなしているようなレビューだけど、推薦に値する作品だと思う。