世界で一番しあわせな食堂:Mestari Cheng

「北の大地のファンタジー」は分かるが、説得力がまるでない

Mestari Cheng

監督 Mika Kaurismäki
製作 2019年 K-7  114分
出演

Pak Hon Chu … Cheng 主人公
Anna-Maija Tuokko … Sirkka レストランオーナー
Lucas Hsuan … Niu Niu Chengの息子
Kari Väänänen … Romppainen 常連客
Vesa-Matti Loiri … Vilppula 常連客
Paula Miettinen … Mervi 雑貨屋店主

これもまた理解に苦しむ作品である。
いや、テーマもストーリーも単純なので内容が分からないということはないが、制作意図がつかめない。なんのために作ったの? と。

全体としては悪くないんだけど、細部の作りこみがいい加減すぎて違和感を覚えるシーンが多すぎる。粗さがしをしてるわけじゃないけどね。たとえばアイアン・スカイなんて理不尽の塊りだけど、強引な勢いに納得させられてしまう。つまり、細かいことが気にならない面白さがあるわけだ。いっぽう本作には強烈なストーリーがあるわけではなく、ほのぼのとした日常を描写するものだけに、その世界観を成立させるにはディディールが重要となる。それなのに手抜きもしくは無理解が多いために、随所でひっかかってしまうわけだ。

夏のラップランド。ずっと佇んでいたいほどに魅惑的

ストーリーはおおむね次の通り。

ラップランドの片田舎に、知人を求めて上海から訪ねてきたチェン。ひなびたレストランで尋ねるも誰も知らず。そこへたまたま中国の団体旅行客が訪れフィンランド料理に不満を漏らすしたため、チェンが急遽用意する。彼はマスターシェフだったのだ。翌日も団体客が来るということでチェンは滞在を伸ばし、そうこうするうちに地元民も彼の中華料理に魅了されレストランは繁盛。同店の女主人と結ばれてメデタシめでたし。邦題とDVDジャケットを見ただけで予想できる内容を超えることはない。
「凝ったストーリーにする気はなかった」(Yle uutiset 19.9.27)というのがミカ監督の狙い通りとはいえる。

ものを尋ねる程度で中国人がお辞儀をすることはありえない

同氏は「人々をつなぐ映画を作りたかった」(レストランガイド City 19.9.20)とも語っているが、そのおとぎ話は無知と偏見に基づいたステレオタイプでしかない。

「Fongtron(という人)を知らないか」と尋ねるチェンに、シルッカは「レヴィ(リゾート地)には日本人、いや中国人がいっぱいいる」と要領を得ない返答。レストラン客にチェンはおじぎをして質問。常連客はワイ(合掌)をしながら「ニーハオ」とあいさつ。チェンの朝は太極拳で始まる。チェンは日本人なのか、タイ人なのか。アジア人を十把ひとからげですよ。まあ、フィンランド人の対アジア観を表現しました、ってことなのかもしれないけど、そんな時代じゃないだろう。偏見が固まるばかりだよ。

パブに居座る常連客の典型的イメージ。

もっとも愚かしいのは中国人団体客がレストランを訪れるくだり。団体ツアーがこんな場末のレストランに、予約なしで来るわけないじゃないか。しかしチェンは少しもあわてず。総勢20名ほどのランチをまたたくまに用意してしまう。そして翌日も団体客を迎えるが、それすら店主は知らなかった・・・。

異文化の出会い、人々の融合、なんてのがテーマらしいが、こうした展開はありえないことではない。アジア人がフィンランド人の手のひらに乗っている限りは。ビザの切れたチェンは中国に戻りシルッカと結婚するわけだが、上海に残るという選択肢はなかったのか。結局は「世界で一番幸せな国」に移住することでみんなハッピーという傲慢な結末だ。

湖畔のたそがれ。フィンランドの魅力であることはまちがいない

ケチをつけはじめるとキリがないんだけど、フィンランドの観客も気づいているようでシルッカとニウニウが星座を眺めるシーンに言及。「夏のラップランドで星なんて見えないよ」と。
https://www.imdb.com/title/tt9779658/

本作の制作意図は中国へのラブコールにある。オーロラ観測を求める中国の観光客は増加の一方だが、夏季のツーリストを獲得するのが目的の一つ。ラップランドの映像はたしかに魅力的で、旅行熱を高めるだろう。

素敵な景色だけど、レストランからちょこっと歩いて行ける場所ではない

それ以上の狙いは中国の巨大な映画市場への売り込みだろう。総製作費300万ユーロのうち、三分の一を中国が負担していることを考えれば自明のこと。アイアンスカイ3が中国を舞台にしているのもその流れだ。

安易な邦題はしらける限りだが、営業的にはうまいと思う。この邦題に心惹かれる人(日本人)なら、映画の内容も楽しめるはずだ。

ひとつ面白かったのはしょっちゅうやってくる警官二人組の会話。
A:なんか匂うな(事件が)
B:うん、旨そうな匂いだ(料理が)
日本語字幕でもうまく訳していてくれることを祈る。

Kari Väänänen カウリスマキ兄弟の作品の常連で、85年のClamari union以来、15本ほどに出演。