Äideistä parhain:「最高のお母さん」。疎開児童の半ドキュメント

あのとき、同様の境遇だった人は無数にいるはず

監督 Klaus Härö

製作 2005年 111分 K11
出演
Topi Majaniemi  主人公Eero少年期
Esko Salminen 老境期のエーロ
Marjaana Maijala 生みの親Kirsti
Maria Lundqvist  育ての親Signe
Michael Nyqvist   Signeの夫

2006年のユッシ賞(フィンランド版オスカー)で最優秀監督賞に輝く。海外での評価も高く、アカデミー国際長編映画賞の候補にもあがった。Heikki Hietamiesの同名小説を基にした半ドキュメントなので目頭が熱くなる展開もあるし、映像も美しい。主なロケ地はスウェーデン南端のSkåne(スコーネ)。海峡を隔ててコペンハーゲンに隣接する田舎だ。

第二次世界大戦中、7万人以上の子供がフィンランドからスウェーデンに疎開していた。Sotalapset(戦争の子供たち)と呼ばれる彼らは、同時期の日本の疎開児童にあたる。主人公の少年Eeroもその一人。

戦争で父親を亡くした9歳のエーロはスウェーデンに疎開させられる。見知らぬ土地での新しい生活には当然ながらなかなか馴染めず、受け入れ先家庭の主婦Signeとの関係も思わしくない。やがて次第に心を通わせるようになり、強固な絆を結ぶにいたる。と、大筋ではありがちな展開。
物語はエーロが老境に至った現在と少年時代とを組み合わせ、現在をモノクロで、疎開時の思い出をカラーで描写。「ジョニーは戦場に行った(1971)」方式である。

戦争が終わりエーロはフィンランドに戻る。その後、彼がどこで何をしていたかは全く描かれていないが、過去と現在を織り込んでの進行の中でその間の出来事は断片的に伝えられる。生みの親Kirstiはドイツ兵と恋に陥ったものの捨てられる。シグネはエーロを心底愛するようになる。一方、キルスティの息子への感情に疑いが生じる。フィンランドに戻った時点で、エーロはキルスティを母親と認めないようになった・・・等々。

育ての親の墓参りに沈痛な面持ちで向かうエーロ。

シグネが亡くなりエーロはスコーネに墓参りに赴く。そこで長年持ち続けていたシグネとキルスティの書簡を初めて開封。生みの親もまた自分を強く愛していたことを知る。

エーロは年老いた母親を訪ねる。「60年。人生の長さだ」。その長きにわたって母親を恨んでいたことを悔やむエーロ。取り返しのつかない時間にエーロはただ母親の腕を優しく叩くのみ。母親も同様の反応しかできない。

母親のアパートを後にしたエーロは涙ぐむも微笑みを残す。ハッピーエンドとはいえないが、二人の気持ちが通じ合ったとはいえよう。

とまあ、戦時下の悲劇と親子の愛情、とまとめることはできるけど、よくわからない面も多い。シグネはキルスティを母親失格と終生思っていたわけだし、Äideistä parhain(最高の母親)とは誰のことなのか。英語タイトルのMother of mine(僕のお母さん)では意味が変わってしまう。外国映画(音楽でも同じことだが)のタイトルの翻訳が原題と異なるのは当然だが、正確に英訳するとThe best mother(in the world)となる。エーロと二人の「母」との関係を考えればどちらであるかは明らかなような気もするが、それでいいのか? DVDジャケットでエーロを抱いているのはキルスティなので、これにもミスリードされそう。

本作は史実を基にしたフィクションだが、形は異なれど似たような境遇はいくらでもあっただろう。映画の本当の狙いはわからなくても、「戦時下の悲劇」として受けとめれば感情移入できる。

思い返せば楽しい日々でもあったあの頃・・・

蛇足ながら

・フィンランドの疎開児童はおよそ8万人。うち7.2万人がスウェーデン、ノルウェーには母親を含む4200人、デンマークに100人。これらのうち、1万5500人は疎開先に残ったそうだ。
・フィンランドの実質的終戦は1944年の9月19日。

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