マッチ工場の少女:Tulitikkutehtaan Tyttö

4人殺して逮捕されるも、その先に希望すら感じる

監督  Aki Kaurismäki
製作 1990年 69分 K-12
出演
Kati Outinen  …   Iris Rukka 主人公
Elina Salo   …    母
Esko Nikkari   …   義父
Vesa Vierikko   …   Aarne(一夜の男)
Reijo Taipale   …   The singer

後に「労働者三部作」と総称されるシリーズの三作目。これを初めて見たのはたぶん92年。公開からさほど年月は過ぎていない。前作のレニングラードカウボーイズで「カウリスマキの名は国際的になり、日本でも知名度が高まった」と言われるが、実際には一部の映画通にしか知られていなかった。当然ながら私は全く知らなかった。しかし本作をフィンランドで見た時の衝撃は忘れられない。なんとつまらないのだろう、とあきれかえったのだ。

工場労働は単調で、毎日は退屈極まりない。

冒頭からしてつまらない。丸太のアップに始まり、マッチの製造工程が延々と映し出される。材木が薄く削られ、続いてマッチ軸サイズに裁断される。ベルトコンベアに乗ったマッチは箱詰めされ、主人公が登場してラベルを張る・・・。この無意味な流れこそがカウリスマキのユーモアであることに気づくまでは時間がかかった。彼の作品を何本も見て、本作も繰り返して鑑賞してからのことだ。初見時には最初から最後までまるで面白いとは思わなかった。

「真夜中の虹」のエンドテーマを歌うレイヨ・タイパレが特別出演。

ところが、カウリスマキ作品に慣れてからこの作品をみると、その面白さがじわじわと伝わってきた。ストーリーは単純。不幸を絵に描いたような女性が男に弄ばれ、その復讐として男を毒殺し、あっけなく逮捕される場面でエンド。4人毒殺してるから死刑もしくは終身刑だろうが、悲壮感はない。ハッピーエンドにすら感じてしまうのは、イリスが望みを果たしたからだろうか。

レニングラードカウボーイズ風の兄だけがイリスの味方

セリフが少ないことで知られるカウリスマキ作品だが、本作は特に少ない。それでも映画は成立するどころか、一か所をのぞいてすべて無言劇にしても意味は通じる。セリフが重要なシーンはイリスが殺鼠剤を買う場面だけ。ここのセリフは以下のとおり。

イリス:Miten tämä vaikuttaa?
店員: Tappaa.
イリス:Hyvä.

意訳すると次のようになる。

イリス:どんな効果?
店員: 死ぬよ。
イリス:オーケー。

ブラックジョークでもあるし、自分を捨てた男を殺す決意を示す場面なので、このセリフは理解しておきたい。映像を注意深く見れば、なにやら毒薬を買ったようだ、と分かるかもしれないが。

ヘルシンキ市立植物園が不思議に美しい

カウリスマキ作品の共通点の一つであるマズそうな食事も登場。輪切りトマトを乗せただけの食パンが供される。前夜、男にもらった1000マルッカ(ユーロ前のフィンランド通貨)で払ったと推定できるが、そのお釣りが500マルッカ。つまりこのまずパンも500マルッカ。当時の日本円にして約2万円だ!

日本の一鑑賞者が「少女じゃなかった」と一文のレビューを寄せているのを見つけた。納得の寸評。しかし、美人とはいえないカティ・オウティネンが本作では魅力的に映る。名作といっていいんだろうな。マッチの製造工程もよく分かるし。

ところでこれ、日本ではレーザーディスクで発売されてたんですね。キャッチコピーは「ふしあわせな、あたし」。これまた納得のひとこと。