罪を洗い流せ、なんて言われてもなあ
監督 Antti-Jussi Annila
製作 2008年 83分
出演
Wille Virtanen (Eerik)
Tommi Eronen (Knut)
Viktor Klimenko (Semenski)
Rain Tolk (Rogosin)
Kati Outinen (Eukko)
フィンランドといえばサウナ。サウナといえばフィンランド。それがホラー映画化されたのだから、これはもう、見るっきゃないでしょう。
時は1595年。ロシア・スウェーデン戦争(両国間の戦争はいくらでもある)の一つが締結した直後、という時点から良く分からないのだが、地理的には大昔のフィンランドが舞台、ととらえておけば十分。史実に基づく話じゃないからね。ともかく、つかの間の平和時にロシア・スウェーデン両国の兵士が国境確認のために北部フィンランドを探索する。主人公のエーリクとクヌット兄弟はフィンランド人だが、その当時フィンランドなんて国はなかったので、スウェーデン軍の一員として参加。ラップランドに向かう。
映画の始まりは古地図に流れる血液。続いていかにも冷たそうな川も血でそまる。モノトーンに近い引き締まった画面が美しく、この後に起こるだろう恐怖シーンへの期待を高めてくれる。イントロにはちょっとした惨殺シーンもある。が、その後は冒頭で記した境界線確認行進が続き、ストーリーが展開しない。20分すぎた所で最初のドッキリ。あ、ホラー映画見てたんだ、と我に返る。それも一瞬で、一行はいつのまにか寒村にたどり着く。小さな湖の中にやけに近代的なサウナ。外見はサウナにほど遠いのだが、タイトルからいってこれはサウナでしかありえない。ここでなんか起きるのだろう。
なんとなくいわくありげなセリフ、登場人物のひきつった顔が淡々とした恐怖を予想させるが、物語もまた淡々と続き、あっと驚くようなことは何も起きないのである。意味ありげにサウナクッカ(イヌカミツレ)を拾ったり、目をつぶされた犬や奇病で死にゆく村人などが散りばめられているのだが、連携がわからない。見る者が己の内面に恐怖を募らせていくのだろう(お、いいこと言ったかな)。
カウリスマキ映画の常連、カティ・オウティネンが村人として登場
たどり着いた村にはなにがしかの亡霊が住み着いていることが徐々にわかっていく。しかし姿は見せない。殺人や少女凌辱を犯した主人公兄弟たちの妄想、幻覚といってもよい。さて、この村はロシア、スウェーデンのどちらに属するのか。境界線問題は一応の解決を見たところで、おや、村人がいなくなっている。村でただ一人の少年(に扮した少女)を発見。彼女がいうには、クヌット(エーリクの弟)が全員をサウナに連れて行ったそうだ。エーリクに口をふさがれ、すべてを語ることはなかったが、どうもクヌットはすでにこの世の者ではなくなっているようだ。
「サウナは罪を洗い流す」みたいなことを語っていたエーリクは意を決してサウナに入る。そこにはクヌットが待っていた。
恐る恐る背中を流してもらうエーリク。クヌートはエーリクの目を潰して殺す。
エーリクは身を挺して少女を逃す時間を作ったのである。妻への遺言、領土確認の書類(実際には「ここへは来るな」という願い)を託して。
DVDジャケットでもお馴染みの場面。しかしこの絵で想像するようなことは起こらない
村を抜け出た少女はここを越えれば助かると言われた川にたどりつく。雪のちらつく中、半裸の男が川岸に横たわる。ここまで来れば予想通りに少女は惨殺。理由がよくわからないが、罪のないものはいない、ということか。単に殺人狂の犠牲になっただけなのか。
エーリックに託された書類が川を流れていく・・・。で、それを拾うのが冒頭のシーン。
ということで、訳わかりません。思わせぶりなセリフ、意味ありげなシーンも、つながりがわからない。フィンランド・チェコの共同制作というのもわからない。整合性がわからない。時代設定がなぜ16世紀なのか。その頃のロシア兵があんな軍服を着ていたのかわからない。
レビューを見ると、アメリカ人からの評価が高い印象。ハリウッドでは作れないホラー、こういう作品を我々(アメリカ人)も作るべきだ、といった高評価が目立つ。ストーリーやショッキングな映像で怖がらせるのとは異なる手法であることはわかるけど、ワタシとしては面白いとは思わなかった。期待外れ。フィンランドでも酷評する人は多い。とはいえ、2009年のユッシ賞(フィンランド版オスカー)で音響、セット、衣装の3部門を受賞。ん? 映画自体はたいしたことない、ってことかな?
日本ではフィンランド批判はタブーみたいな風潮があるので、この映画もまた「実はサウナは・・・」などと、無理やり善意解釈をすることになるのではないか。