Ilonen talo : クズに翻弄される子供たちから目が離せない

「楽しい我が家」は完全に皮肉。フィンランドの暗部を描く

原題 Ilonen talo
監督 Maria Ruotsla
製作 2006年 K-15  152分
出演
Jessica Grabowski             Ruut
Anni Ojanen                     Birge
Milka Ahlroth                    母親
Carl-Kristian Rundman    父親
Emmi Kukkonen         Birge(子供時代)
Marika Gröhn              Ruut(子供時代)

Kreetta Onkeliの同名小説(1996)を原作とするTV映画。タイトルのIlonenは誤記ではない。現在の標準語ではIloinenだが、昔は前者のようにつづることも多かった。また、今でも会話ではそのように発音されるのは普通。Ilonen、Iloinenの意味は「楽しい」もしくは「うれしい」ということ。

したがって表題を意訳すれば「楽しい我が家」となる。また、小説は「楽園にようこそ」という編纂ものに所収されていることから、「心温まるファミリードラマ」を想起するかもしれない。しかし内容は全く異なる。K-15の作品は2時間半に渡り、これでもかとばかりに悲惨な話が続く。そう、タイトルは皮肉に満ちたものなのである。

悲惨な生活が一目でわかる

1980年代の東部フィンランド。4人家族の親父がまず自殺。母親はアル中ですさんだ性生活を送る。フィンランド映画に欠かせないシチュエーションである。ここにさまざまな不幸が次々と追いかぶさってくる。主人公のRuutが少女から大学生に育つ10年ほどの間、周囲にはろくでなししかいないのである。唯一の例外は父方の祖父だが、あっけなく死亡。とにかくたくさん人が死ぬのだ。

この母ちゃんが飲んだくれ

アルコール依存症の両親のもと、悲惨な環境に育てられている子供たちはフィンランドにも少なからず存在するので、「現在にも通じるテーマ」という評価が与えられている。その通りなのだろう。仮に、「実話に基づく・・・」と言われても納得する。

抑揚のないエンディングも、このストーリーが特別な設定ではないことを告げている。荒れ果てた子供時代を経て大学生となったRuutが人生を「前進していく」と語るところで終わる。悪党に復讐したり、幸せの鍵をつかんだり、あるいはさらに悲惨な境遇に陥る、などの見せ場はない。淡々と「みんな頑張れよ」という応援が聞こえなくもない、という程度。ま、実人生ってそんなもんだよね。というわけで非常に気になる作品。ろくでなしのオンパレードが楽しいわけはないが、始めたら目が離せないという感じ。邦画の「Mothere マザー」(2020年)ほどではないけど、不快感を覚える人もいるだろう。Täältä tullaan, elämä! やKoti-ikäväに通ずるものがある。フィンランドの暗部。

成人したRuut。友達のBirgeとともに”明日”に踏み出す。

日本人が数秒登場するのがご愛嬌。エンドロールのクレジットには「Japanilaiset」として3人の名前も出てくる。Toru Ohigashi、Yasuko Ono。そしてJoni Maaninenだって。最後のは明らかにフィンランド人だ。ベビーカーに乗った赤ん坊で、画面には1秒も映っていないので気にしなかったんだろな。しかし、いずれにしても意味ないんじゃない?

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