アールト大学見学のオプション

学生になったつもりでキャンパスを歩き回りたい

オタニエミ礼拝堂内部

フィンランド建築の宝石箱

アアルト大学のキャンパスがあるオタニエミは suomalaisen arukkitehtuurin helmiと呼ばれている。直訳すると「フィンランド建築の真珠」になるが、その真意は「建築の宝石」、飛躍を承知で意訳すれば「宝石箱」といえよう。大学本館を真珠に例えるとしても、キャンパス内にはそのほかにも多くの宝石が詰まっているからだ。

アールト大学を訪問する人のほとんどはヘルシンキ市内のアトリエもしくは/および自邸見学を同日に組み込むため、大学自体は本館と図書館の見学で済ませることが多い。その二つはアアルトの代表作なので、時間的制限からやむを得ないことである。しかし「宝石箱」と表現したように、大学構内の建築群はヴァリエーションに富んでいるので、旅程を工夫して存分にご覧いただきたい。それにはアールト以外の手による作品も含まれる。また、周囲を歩くことで当時のアアルトがどのような思いで地域デザインに取り組んだかを感じることもできる。

「水の教会」のオリジナルとされるオタニエミ礼拝堂

オタニエミの建築群のうち、アアルト以外が設計した作品で最も有名なのがオタニエミ礼拝堂だろう。安藤忠雄氏の「水の教会」(北海道勇払郡)は、これを参考にしたと言われている。
しかし元を正せば蓮華寺や建仁寺、南禅寺等々、渡り廊下で庭を切り取るように見せる建築手法は大昔からありましたね。どちらかが真似をした、というようなことではないのです。

1967年に竣工した同礼拝堂は、Heikki & Kaija Sirenの設計によるもの。同夫妻がヘルシンキに残したものとしてはympylätalo(1968・ハカニエミ)、Graniittitalo(1982・カンッピ)がある。両者には今となっては魅力は感じませんね。個人的な感想ですが。

森林内にひっそりと佇む礼拝堂の内部は暗いが、それゆえにガラス窓を通してみる十字架がひときわ印象的。映画のスクリーンのようである。

オタニエミ礼拝堂の場所
*行き方 (上図クリックで拡大)

大学本館の西を走るバス通り(Otakaari)を北上。分岐点を右に (jämeräntaival)進む。道なりに300mほど。二つ目の小径を左折して森の中に入っていく。本館からは約1キロ。10分くらいの距離だ。

ひっそりと輝く逸品があるからこそ「宝石箱」

大学本館から300mと離れていないのに、ほとんど話題にのぼらないのがディポリ(Dipoli)。芸術に特化した多機能施設だが、学生会館といったほうが分かりやすかろう。Reima IlmariおよびRaili Pietiläによる1966年の作品。日本での知名度はシレンよりさらに低いだろうが、Reimaはタンペレの中央図書館、Metsoの設計者といえばピンと来る人もいるかもしれない。かつてムーミン博物館があった場所である。

アアルトはディポリについて辛辣な批評を加えたそうだが、その真意はどこにあったのか。度重なる改装(最終工事は2019年春)で当時とは異なる趣を見せているので、実際に体感してほしい。

アールト大学・ディポリ

ディポリもそうだが、校内には現役学生の試作品が所々に展示されている。2010年の三大学統合( 工科大学・経済大学。芸術デザイン 大学→アアルト大学)となったことで展示内容はさらに深まっているようだ。すでに「古典」と言えるアアルト作品の中で学ぶ若者が過去をどう咀嚼し、どう対峙しているのか。もし自分が今ここで学ぶとしたら・・・といった想像を膨らませると、半日の滞在でも短いだろう。自邸やスタジオを訪れるよりも見学の実りは多いかもしれない。どれだけ長く見てても無料だし。

オリジナル・アアルトツアーのアレンジはおまかせください。