ヘルシンキはアールヌーヴォー建築の意外な穴場

ウスペンスキー寺院周辺に集まる100年前のモダン建築

フィンランド・アールヌーヴォーの代表選手、ヘルシンキ中央駅でランタンを持つ男たち

ヘルシンキ観光の目的に建築巡りをあげる人は少なくない。知る人ぞ知る。知らない人はまるで知らないが、フィンランドには短いながらも独特の建築文化があるのだ。その中でフィンランドの近代建築を代表するアルヴァ・アアルト(1898-1976)は知名度も高いので、建築に特段の興味がなくても、彼の自邸やスタジオなどを訪問する人は多い。

いずれもおすすめポイントではあるものの、中心街から離れていたり、開館時間の制限もある。さらには、やはり専門分野に属するテーマでもあるので、興味に合わず失望する可能性もある。

そこでお手軽に”素敵な建物“に触れることのできるエリアを紹介しよう。カタヤノッカのアールヌーヴォー地区である。海外の建築物と日本のそれとの違いは一目瞭然なので、深い知識がなくても「ああ外国に来ましたねえ」という感慨は得られる。しかもタダだし。

アールヌーヴォーというのは19世紀末から20世紀初頭にかけてのヨーロッパで流行した総合芸術で、建築にも独特のスタイルがある。アールヌーヴォー建築が連なる都市として有名なブリュッセル(ベルギー)やリガ(ラトビア)には遠く及ばないが、ここ、カタヤノッカもなかなかのものである。中心街からさほど離れていないし、トラムも使える。

これはリガ(ラトビア)の建物

フィンランドを代表するアールヌーヴォー建築といえばヘルシンキ中央駅。その正面入り口を基点としてツアーを始めよう。

まずは駅から東に向かう。大聖堂の方向だ。大聖堂を見学したら、その後もまっすぐ東に進み、ウスペンスキー寺院へ。同寺院に隣接するトーヴェヤンソン公園と道一本隔てたところからアールヌーボー地区となる。
ここまで歩いてきたのは大聖堂等の市内観光を兼ねてのこと。すでに訪れたということなら、駅前から4番トラムに乗ってTove jansonin puistoでおりればよい。

ユースホステルやアパートメント、人気のホテルなどもあるので、同所が観光の基点となる人もいるだろう。しかし、近辺に滞在していても、言われなければ気づかないかもしれない。ある種の穴場。

緑の建物(右)が三人トリオの作品

ヤンソン公園の向かいには超有名建築家の作品が二つある。一つはEliel Saarinen、Armas Lindgren、Herman Gesellius のトリオの手によるもの。彼らはヘルシンキ工科大学の同級生であっただけでなく、名をなしてからは共同で建築事務所を設立している。
もう一つの作品はSelim A. Lindqvistによる。この人はリラ・ロバーツホテルやFazerカフェの設計家としても知られている。

その角を4番トラムの路線に沿って(Kurunuvuorenkatu)進む。掲載地図の11を中心にアールヌーヴォー建築が目白押し。この地図を見る限りでは小さな区域と思えるが、実際には赤線で囲んだ部分に広く点在している。同図は観光インフォで手に入る「ヘルシンキ散策 4ルート(4 Walking Routes in Helsinki)」という新書版サイズのガイドブックが出典。

おすすめのルートはヤンソン公園(9)から11・13をめぐり、8(ウスペンスキー寺院)に戻るというもの。ゆっくり歩いて1時間くらいだろうか。10・12はアールヌーヴォー建築とは関係ないのでカット。

ただ、この小冊子では11をアールヌーヴォー地区と記しているだけで、どこに誰の作品があるかはわからない。したがってむやみに歩くだけでは重要建築物を見落とす可能性は高いが、「一風変わった建物」のいくつかは確認できるだろう。市内散策の延長と割り切れば十分に楽しめるはず。なお、トーベヤンソンの生家もほど近くにある。住所は・・・あえて掲載しない。

フクロウに守られたエントランス。隠された意味は・・・ない。それがアールヌーヴォー

ところで、ヤンソン公園の向かいにある三人トリオの作品は一階がカフェになっている。その女主人と雑談をしていたら、「なんか有名な人が作ったみたいね」なんて言ってた。国際的に有名な建築物の中で働きながら、彼女はその由来を知らないのだ。なんとなく楽しい気分になった。