はじめチョロチョロ、なかパッパ。ご飯は強火で炊き始める

弱火で炊き始める、というのは大いなる誤解

日本人の主食が米であるかどうかについては議論の余地があるが、和食の基本はごはん、米といってよいだろう。そこで「スーパー和食」の第一回投稿はお米のおいしい炊き方について記そう。
「はじめちょろちょろ 中ぱっぱ 赤子泣いても蓋とるな」という言い回しはよく知られているが、本当の意味を理解している人は少ない。ご飯をおいしく炊く手順らしい、ということは想像できても、具体的ことは分かっていない人が多い。そこでネット検索してみると、そのあたりのことを記したサイトが始めちょろちょろ、じゃなくてずらずら出てくる。大勢は「はじめは弱火で炊き始め、その後沸騰させる。炊きあがってもしばらくは蓋をとらない」という解釈だが、それで納得する気持ちが理解できない。実際に炊いたことあるのか?

ご飯は弱火で炊き始める(のが良い)というのは、「始めちょろちょろ・・・」の語感からのでっちあげに過ぎない。もっともらしく「昔、点火にはもみ殻などを使っていたので、最初の火はちょろちょろ(弱火)、薪に火が移るとぱっぱと燃える(強火)ことを表現したもの」といった”解説”が加えられていたりするが、「ちょろちょろ」は本当に弱火のことなのか? 「ちょろ火で炊く」というような表現も見受けたが、「ちょろ火」なんて言葉、ないだろ。「弱火」の言い換えと考えることはできるが、もみ殻に点火したばかりの炎、いつ消えてもおかしくない状態で鍋をかけるバカはいないだろう。

「始めちょろちょろ・・・」の口伝は江戸時代からのものということだが、正確な発祥期は問題ではない。電気・ガスが一般化する前、ごはんは竈で炊くのが常識であったころ、と大雑把にとらえれば十分である。その当時の釜はどのくらいのサイズか。ごはんを炊くのは一日一度。大家族もざらだったから少なくとも一回五合、二升炊きも珍しくはなかったはずだ。そんな大釜を「ちょろ火」にかけたら、沸騰するまでにどれほど時間がかかるものか。さらに「ぱっぱと燃える」ってどんな状態だ? ぼうぼう燃える、なら分かるが。配管のつまったガス台なら点いたり消えたり、ぱっぱと燃えることはあるが。

ここに鍋をかけると炎はちょろちょろ

チョロチョロは強火、パッパは火加減を意味する

一方、炊飯はまず強火で沸騰させたほうがよい、という分析もある。主流の説とはまったく反対である。実は私も「最初強火派」だ。一気に沸騰させ、その後は焦げつかないように弱火にしていく。すると、「はじめちょろちょろ」は間違いなのか、というとそうではない。俗に流布している解釈が問題なのだ。以下は知人の説明だが、説得力があるので紹介する。

・まずしっかりと焚火を起こす。ぼうぼう、ごうごうと燃え立つ状態。
・そこに鍋をかける(かまど)。すると、いきりたった炎が鍋の周囲を「ちょろちょろ」駆け巡る(強火)。
・沸騰したら薪を「ぱっぱっ」と取り除き、弱火にする。

つまり、強火から弱火という「ごはんの美味しい炊き方」セオリー通りだ。これはまあ当たり前のことで、小鍋で1~2合の米を炊くならまだしも、大鍋を弱火から温めたら、水が沸騰するころには底のほうの米はこびりついているだろう。いっぽう、大鍋の周りから炎がちょろちょろと見えるくらいの強火だと、鍋全体を熱するので中身の温度差は少なく、うまい具合に炊けるわけだ。 この人の説明はこれでおしまいだが、理にはかなっていると思う。

途中でパッパと薪をとる

ところでこの歌にはもう一節加えられることがあって、「中ぱっぱ」と「赤子」の間に「じゅうじゅうふいたら火を引いて」というのが入る。「じゅうじゅう」はお湯が沸騰して鍋と蓋のあいだから水分が吹きこぼれる状態だろうが、そうしたらどうするのか。「火を引く」というのは「火を弱める」としか解釈できない。じゅうじゅうと煮立っている段階だから、それも当然だ。弱火スタート派の人なら、「ちょろちょろ」からの流れは弱火・強火・中火(もしくは弱火)と説明するだろう。
しかし最初から強火派の私は、解釈がことなる。この歌に焚き付け段階の言い回しはない。なんでもいいから薪で強火を起こし鍋を置く(ちょろちょろ)。しばらくしたら中火(ぱっぱ)で沸騰状態を保つ。吹きこぼれるようになったら「火を引き」熾火(炭)で仕上げ(弱火)。もう炊けたな、と思っても十分に蒸らしてご飯の水分を均一化するための「蓋とるな」については誰も異論はないだろう。

赤子泣いたらすぐゴハン

「弱火から炊きはじめるのは米に水を吸わせるため」と説明する人もいるが、「ちょろ火」にあてる必要などないではないか。古くからの言い伝えを現在の視点で解釈すると大きな間違いであることは多く、米炊きの手順も歌のイメージに引きずられた俗説にすぎまい。この時代、薪はおろかガスレンジで米を炊く人なんてごく限られてるだろうから、体験で実感することなんてないだろうし。逆に言うと、炊飯器を使う以上、こんな知識はなくてもいっこうにかまわないわけね。