コロナ禍を振り返る

振り返るだなんて、完全終息したような言い方だけど、2023年9月現在、フィンランドでコロナを特別視している人はほとんどいない。商店の入り口には消毒液がおいてあるけど、もはや使っている人は少数派。マスク着用者に至っては1000人に一人もいないのではないか。それよりもロシアの脅威のほうが深刻だ。この辺も日本とは相当の温度差がありそうだ。

そういうわけで、コロナの危険性はヤマを越したことにして、この3年余りの流れを4回にわたって記していく。本文は別のブログに掲載したもの(2020年3月初出)で、そのときは同時進行の内容。ところどころの赤字が加筆部分。いまだから言える、という補足説明である。

騒動は静かに始まった

2020.3.13初出(以下同)

2月3日、横浜ふ頭に停泊したダイヤモンドプリセス

1月:アジアはなにやら大変なようで?

COVID19。中国武漢で確認されたのは2019年11月だが、その時点で事態を理解した人は世界的にもごく少数だっただろう。それが何やらヤバ いことになっているようだ、と一般に認識され始めたのは、日本だと年が明けた2月上旬。クルーズ客船のダイヤモンドプリンセスが横浜ふ頭に停泊してからだ。その直前、香港で下船した中国人にコロナ感染が判明したためである。しかしそれでも、現在のような大惨事につながろうとは、ほとんどの人が思って いなかったはずだ。

その原因は中国当局、WHOが情報を隠蔽し、日本政府の対策もおろそかであったことにあるが、責任問題はひとまず置いておこう。
本ブログの目的は、フィンランドにおけるコロナの状況を伝えることにあるからだ。

2月:フィンランドにも火の粉舞う

乗客・乗務員を合わせて3700人が乗船し、約700人が感染したというニュースはフィンランドでも報じられた。が、フィンランドでは他人事。アジアではなにやら大変なことになっているみたいだねえ、といった受け止め方だった。私もその一人。
実際には、日本で騒ぎになる少し前(1月29日)にフィンランドでも北部のラップランドでコロナ陽性者が確認されている。中国人観光客の一人だ。患者は即時病院に隔離されたが、国内に広まる恐れはないと報道された。しかしこのニュースに着目した人は少数だったはず。かくいう私も日本での騒ぎに驚き、ではフィンランドはどうな のかと調べた結果、その事実を知った。

ダイヤモンド・プリンセス
2020.1.20横浜出航。25日、香港で下船した男の罹患確認。
2月3日、横浜停泊。船内隔離等。4~11日、さっぽろ雪まつり関連でクラスター発生。
日本では同月末から全国的な警戒態勢へ。

3月:もはや安全な国はない

その状況が一変するのは2月中旬以降のこと。感染者が爆発的に発生したイタリア北部を訪れていたフィンランド人が続々と帰国するにつれて事態は変わった。まずは 南東部のラッペーンランタに陽性患者発生。フィンランド人初の感染者とされている。「入国検査をないがしろにしたため」と批判する医師もいたが、その指摘も空しく、その後もイタリア・スペインからの帰国者が続き、結果、 コロナウィルスが蔓延。2月26日、ヘルシンキで初、国内では二人目の陽性者が確認された。首都ヘルシンキで発症という事態はフィンランド人の耳目を集めた。それまではやはりどこか他人事と受け止めていた感が強い。
日本ではトイレットぺーバーが品薄に、などというニュースを冷ややかに眺めていたフィンランド人も、もはや対岸の火事ではないことを思い知らされたのである。

フィンランド人の初感染から二週間ほどたち、3月に入ると感染者は50名に近づいた。政府は抜本的対策を検討し始め、近く緊急事態宣言を発令することが明らかにされた。

3月になって誰しもがコロナに無関心ではいられなくなった。なにしろ一週間ほどの期間で感染者は50人を超えたのである。たった50人? と思うかもしれないが、人口比で単純換算すると、日本なら1000人以上に相当する。厚労省は3月2日、「国内感染者は268名」と公表。日本人の誰もが脅威を感じたはずである。が、フィンランドの罹患率は3倍以上ですよ。その衝撃の強さも推測できよう。

コロナ対策のはじまり

2020.3.20

誰もいないジム。この一週間後に閉鎖された。

3月に入ると、誰しもがコロナに無関心ではいられなくなった。なにしろ一週間ほどの期間で感染者は50人を超えたのである。人口比で単純換算すると、日本なら1000人以上に相当するから、その衝撃の強さも推測できよう。

フィンランド政府の対応は早かった。3月10日には国境閉鎖の可能性を示唆、16日より実施。不要不急の渡航の自粛を要請するとともに、フィンラン ド国籍もしくは滞在許可を持つもの以外の入国を制限。500人以上規模のイベントは中止、学校は4月13日まで休校とすることを決定。

民間も政府の要請に応えた。大手レストランチェーンは営業を控え、プールやフィットネスジムは閉鎖。スーパーマーケットのレジ付近には客同士が1.5m以上の間隔をとれるようにマーキングするなど、さまざまな対策が取られ始めた。

3月12日、国内の陽性患者は100人を超えた。

商品がなくなった

2020.3.23

トイレットペーパー完売。日本の状況を伝えるニュースが影響を与えた。

トイレットペーパー完売

3月中旬。コロナ禍の長期化が危ぶまれてくるとともに、商店から品物がなくなり始めた。まっさきに無くなったのは一部の食品(後述)だが、日本人の共感を得られやすく、かつインパクトのあるトイレットペーパーコーナーから紹介しよう。
写真を見れば一目瞭然。すべてのトイレットペーパーが完売。これ、日本およびアジア諸国でのニュースが原因。

パルプ製品の生産大国であるフィンランドで、トイレットペーパーが品不足になることはまず考えられない。しかし、日本などでの買占め・品不足を伝え るTVを見て、「ああ、それは大変だ」と無用の警戒心を引き起こしたものと思われる。冷静に考えればわかるが、コロナが蔓延したからといってトイレット ペーパーの消費量が増えるわけではない。手を洗ったあとは布タオルではなく、使い捨てのペーパータオルを使うことが推奨されたので、その消費量は確かに増えたが、品不足にはならない。生産能力は十分にあるのだ。ただ、流通経路に制限がかかるので、一時期は滞るというだけである。

しかし風評の影響力は強く、あっという間に売り切れ。おふざけラジオ番組で流された「年内分のトイレットペーパーは備えたぞ」なんてコメントもその一因だったかもしれない。上掲写真は3月14日(土曜日)撮影。予想通り、16日(月)には棚いっぱいにトイレットペーパーが積まれていた。

売り切れ商品にお国柄が表れる

3月20日、フィンランドで初めての死亡者が発生。首都圏封鎖が検討され、市民の危機感が高まり、日用品の買いだめが進んだ。前述のトイレットペーパー不足は一過性のものだと分かっていたが、食品となると話が違う。輸入物も多いし、切実度が高いからだ。
この4~5日で姿を消した主な食品は以下の通り(順不同)。地域・店舗を問わず、大差はないようだ。

・スパゲティ、マカロニ、インスタントラーメン
・冷凍ピザ
・缶詰のトマトソース
・ひき肉
・ニンニク、ショーガ

調理が簡単で保存性の高いものということで乾麺や冷凍品が買い占められるのはよくわかる。が、トマトソースの需要がこれほど高いとは思わなかった。
ツナやミートパテの缶詰に影響はなし。ニンニクやショーガは「免疫力を高める」ということで、普段以上に売り上げが増えた。ニンニク類の効用は確かにその通りだが、即効性があるわけじゃないのに。ま、この辺は日本でも同じですね。TVで「〇〇ダイエット」なんて紹介されると即日完売、みたいな。

いっぽう、生鮮食料品は従来通りの品そろえ。この時期の野菜はもちろん、肉類も輸入品が多いので、むしろそっちから無くなっていくんじゃないかと危惧していた。この先はどうなるかわからないけど。

旅行会社の責任はどうする?

2020.3.28

フィンエアー、羽田への直行便の増加は停止。

3月上旬のことだが、日本の友人がフィンランド旅行についての相談をもちかけてきた。当然ながら、やめるように勧告。そうしたら案の定だ。フィンランド「など」 に滞在していた女性がコロナ発症。3月17日に二例が報告された。「フィンランド“など”」という表記ではなく、訪問国を明らかにしてほしいものだ。それはともかく、イタリ アでの爆発的な拡散以降、ヨーロッパは危ないというのは日本の常識になったものと思っていた。
が、実情はまるで違う。

3月中旬、フィンエアーは運航の9割減を発表。しかしフィンランド⇔日本の同社のドル箱であるヘルシンキ⇔日本(5空港)の路線は維持。ヘルシンキ⇔羽田で予定していた増便はとりやめる、というだけのものだった。すなわち、4月以降もバンバン飛ばしますよ、という方針だ。楽観に過ぎないか、と感じたことを覚えている。客足が遠のいたためか、3月15日時点のヘルシンキ⇔成田の往復料金は7万円を切っていた。友人がこの機にフィンランド旅行をしようと思ったのも無理からぬ。

そういうわけで、3月中旬くらいまでなら、いくらでも海外旅行が(少なくとも予約は)できたわけだ。学校も休みだし、ツアーがあるなら行っちゃおう、と考える人がいてもおかしくはない。浅はかではあるが、しょうがない。売ってるんだから。

罹患の可能性は十分に推測できた

そうした中、3月2日から13日にかけて欧州を旅行していた京都産業大学の学生たちがコロナに罹患した。2月下旬にはコロナのニュースは流れまくっていただろうが、彼らがヨーロッパに旅立った2日の時点ではたいした危機感はなかっただろう。旅行を見合わせるように助言した人もいないはずだ。そりゃそうだ。大手旅行代理店が販売してたんだもの。

17日に帰国、発症した後はもう少し慎重に行動すべきだったのでは、との思いもあるが、事態の深刻さをどれだけの人が理解していただろうか。むしろ旅行会社の責任のほうが大きい。3月2日には「ヨー ロッパ=危険」というのは既定事項になっていたのに、堂々と販売していたのだから。その時点で旅行会社がツアーを中止していれば、彼らが罹患することはな かったのである。なお、当社では2月20日以降の予約はすべてキャンセル、当面の催行は不能である旨を通知した。しかし、弱小会社(当社)の訴えが世間に影響を与えることは全くなかった。

某大手旅行会社の3月26日の公告

※出発日:2020年5月3日までの出発 : 催行中止
※出発日:2020年5月4日以降の出発 : 今後の状況を鑑み改めてご案内いたします。

時すでに遅し。一月前に決断すべきだった。できたんだからさ。

コロナが死に至る病であることが知れ渡ったのは3月29日以降のことだろう。なぜそうはっきり言えるかというと、この日は志村けんさんの命日だから。まちがいなく日本最高、世界でもトップレベルの施術を受けていただろうに、それでも・・・と、全国に激震が走ったに違いない。そんなわけで、3月上旬に欧州旅行した若者たちを責めるのは酷ではないか。知らなかったじゃ済まされない、というかもしれないが、誰も知らなかったんだから。一部では認識されていたが、公表しなかったんだし。

もはや日本に帰れない

2020.4.1

2週間前は往復7万円を切っていたのに? しかも何、この所要時間。

3月28日、ヘルシンキを中心とした首都圏を封鎖。境界を超える移動は制限され、武装警官が警備にあたるという非常事態になった。封鎖は4月19日まで続く予定。
日本でも他県のナンバープレートには白い目が向けられてるみたいだけど、こちらでは国家権力が実力排除。戒厳令とはこういうものか、と思い知らされた。

こうした中、4月以降も維持するはずだったフィンエアーの日本直行便はすべて取りやめ。再開の目途はたっていない。当然ですね。

さて、フィンランドから日本に行くすべはないのか、と机上プランではあるがチケット予約サイトを検索してみた。すると上掲スケジュールのような可能性が。4月6日というのは仮の出発日。
カタール航空を使い、ヘルシンキ⇒ロンドン・ヒースロー⇒仁川⇒成田という経路。40時間以上かかるうえ、往復運賃は40万円を超える。それでも行かねばならない人もいるだろうが、もう一つの問題がある。日本での入国に関することである。

日本人が日本に入国すること自体は可能だが、厳しい制限も加えられることになった。3月21日午前零時以降に到着した場合、その後の移動に公共交通 機関を使うことが禁じるというのが一つ。バス・電車はもちろん、タクシーの利用も不可。国内便への乗り継ぎもできない。知人に迎えに来てもらうか、レン タカーを手配して自力で移動するしかない。

さらには14日間の待機命令。待機先は「検疫所長が指定する場所」とされ、基本的には自宅。自宅のない私などはホテル住まいになるが、2週間の滞在費といったら・・・。さらには帰国便(日本⇒フィンランド)が運航される保証はないのだ。
そういうわけで、帰国は実質的に不可能になった。

それでも日常生活は続く

2020.4.5

お菓子のバラ売りコーナーは商品撤去

依然として拡大傾向が止まらないコロナ禍。さまざまな制限下で日常生活が続いている。いっぽう、政府が示したコロナ対策は行きわたっているという印象を受ける。現時点での施策の数々を列挙してみよう。一月前とは大きく変わっている。

・学校は5月中旬まで休校(当初は4月13日までを予定)
・10人以上の集会を禁止(500人⇒50人と推移した後)
・カフェ、レストランは休業。ハンバーガー、コーヒー等の持ち帰りのみ許可
・店舗では客同士が1.5メートル以上離れることを推奨
・多くの店舗に消毒液設置
・首都圏閉鎖は依然として続行

先行きの見えない事態に不安はあるが、各種の規制に不満はない、といった状況。突発的な集会を開いたり、海外に出かける人もいない。この辺は統制がよく取れていると思う。

スーパーマーケットの品ぞろえは、騒動以前に戻りつつある状態。乾燥パスタや小麦粉などが完売していることもあるが、4~5日もすれば補充されている。全体の在庫としては以前の8割くらいかな。
そ うした中、商品が全くない棚を発見。お菓子のばら売りコーナーである。通常だとここには一口大のチョコレートやキャンディー、グミ等々が数十種類あり、お客は好みのものを好きなだけ袋詰め。グラム単位で清算するというシステム。駄菓子の量り売りといえばいいだろう。フィンランド人はこの手のお菓子が大好きなのだ。

そんな人気商品が全くない。「ああ、これは学校が休みで家にいる子供たち向け、あるいは自宅待機でTVでも見ながらつまむために買い占められたのだな」と思った。たまたまポテトチップスコーナーもほとんどカラになっていたので、推測が裏付けられたような気がした。ポテトチップスもフィンラ ンド人の必需品だからね。

しかし、実情は違った。量り売りは専用のスクープを使うのだが、不特定多数の人間が素手で触れてしまう可能性もある。なにより商品はむき出しの菓子なので、空中飛散しているウィルスが付着する危険性は十分にある。そうした配慮からの措置だ。調理パンの類も従来は無造作に棚積みしていたが、現在では一つひとつが個別包装されている。

果たして日本での対策はどの程度進んでいるのだろうか。漏れ聞く限りでは、どうも緩い気がしてならない。

トイレットペーパー復活。ペーパータオルは品薄状態

4月1日時点での総感染者数は約1500人。

その2に続く

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