フィンランド語は世界有数の易しい言語

フィンランド語は簡単だ。もちろん日本語も

まず当然のことを確認しておくと、世の中に絶対的に難しい言語というものは存在しない。したがって、絶対的にやさしい言語もありえない。じゃあ見出しはなんなんだ、ということになるが、一面の真実ではあるのだ。フィンランド語はやさしい。以下、その理由を記す。

フィンランド語が難しいという人は、FSI(米国務省機関の外務職員局)の外国語習得難易度ランキングを根拠として語っている。同調査では日本語、中国語、朝鮮語、アラビア語などを難しい言語にあげているが、FSIの評価は普遍的なものではない。英語を基準としているのだから、構造の近いオランダ語やデンマーク語の習得が簡単で、英語から離れたフィンランド語や日本語は難しいと判断されるのは当然のことだ。したがって、日本人がそれを尺度にしてフィンランド語の難易度を語るのは全くナンセンスなのである。

いっぽう、日本人(日本語)を基準としてフィンランド語を考えると、かなりやさしい言語であることがわかる。フィンランド語も日本語も英語とはかけ離れた言葉なので、それゆえの共通点が多い。ではFSIがほかに挙げている難解言語であるアラビア語や中国語も日本人にはやさしいのか、というとこれらの言語の英語との隔たりは日本語とは別方向にあるので我々にとっても難しい。比ゆ的に言うと、英語を中心にして日本語は東へ、フィンランド語は北東に向かい、アラビア語は北北西に進むといった感じ。上図がそのイメージ。

フィンランド語と日本語は似ている

実際、日本語とフィンランド語には類似点が多い。これは単なる思いつきや印象ではなく、多くの言語学者が指摘してきたことである。金田一京助、新村出、大野晋あるいはラムステッドなどの学者たちが、両者が同じ語族である可能性を証明しようと努めてきた。
結局その仮説はほぼ否定されており、考察根拠の一例としてあげられていた「ウラル=アルタイ諸語」なんてのを口にすると笑われてしまうのが現状だが、そうした研究の存在自体が両者に共通点・類似点が多いことを示している事実にほかならない。同族語ではないにしても、似ているのは確かなのだ。
したがって日本人がフィンランド語の難しさを恐れる必要はさらさらない。むしろ英語こそ「世界で最も難しい言語=日本人にとって」なのである。

この辺の話を正確に語ろうとすると非常に長くなるので、これでやめておく。要は言語の難易度というのは相対的なものであって、どこの国の人(その母語)にとって何語が難しいか/易しいかということは言えるが、万人に難しい/易しい言語など存在しない、という自明の事実を確認していただければよい。

では、日本人にとってフィンランド語はなぜ、どこがやさしいのか。以下、項目ごとに記していこう。

フィンランド語の授業はとっても簡単

文字

フィンランド語の文字はアルファベット26文字に3文字たしただけ。その3つとは「ä・ö・å」。初めの二つはaとoの頭にテンテン(ウムラウト)を、3つ目は○を加えるだけ。フィンランド語を学ぼうという人がアルファベットを知らないということは考えられないので、この3文字など「覚える」というほどのことではない。2秒で解決。文字が読める・書けるというのは(特に日本人にとっては)、外国語習得に大きなメリットである。

さらにいうと、åはスウェーデン語の文字 で、 Åbo(フィンランド語ではTurku)など、地名にしか使われないし、C・Q・W・X・Zが使用されるのは極めてまれ。つまり、29文字あるものの、日常的には23コしか必要ないのである。こんな簡単な言葉がほかにあろうか。

発音

発音にはいくつもの要素があるのですべてを網羅することはできないが、まず音節単位でいえば日本語におおむね類似。つまりローマ字読みがそのままフィンランド語になるケースが多い。もちろん、日本語にはない発音もある。
加えて開音節(発音の最小単位が母音で終わる)であることが発音を簡単にする。英語は閉音節。単語の途中に子音が連続したり、最後が子音で終わったりする。たとえばstreetなんて初めに子音が3つ続き、最後も子音。しかも、これすべてで一音節だ。英語を習いたての人なら、ローマ字読みでsutoriito(ス・ト・リ・イ・ト)と5音節の発音にしても不思議ではない。実際、そういうことって多いですよね。

いっぽう、フィンランド語の音節の区切りは日本語に近いので、suomi(二音節。uoは二重母音なので一音節)をローマ字読みでス・オ・ミと三音節にしてもさほどの違和感はない。

また、ひとまとまりの文章の発音が「平坦」なのもなじみやすい。英語だと単語レベルでもストレス(俗にいう“アクセント”)の置き方で意味が通じなくなることがある。ところがフィンランド語のストレスは常に単語の冒頭に置くという黄金律がある。例外はない。おや、日本語よりよっぽど簡単だ。箸と橋は抑揚によって意味が全然変わっちゃうもんなあ。

文法

日本語もフィンランド語も単語の語尾が変化する(もしくは接尾辞をつける)膠着語なので、基本的には理解しやすいはず。フィンランド語ではこれを「格」という考えでとらえ、その変化の複雑さが初級者を悩ませる(ことになっている)。
たとえば「学校」という日本語の単語は「学校へ、学校に、学校で、学校が」と文意によって助詞を選ぶわけだが、フィンランド語にはその変化形が15もある(数え方によっては29種)・・・。なんて脅しをかけられると尻込みしてしまうが、簡単にいえば「てにをは」なのである。なーんだ。そんならわかるよ。しかも日本語だって「学校へ」と「学校に」の違いを正確に理解している人はどれだけいるだろうか。間違えたところで支障はない。ましてやフィンランド語なんだから、間違えて当然と開き直ったってかまわない。
格変化の多さはフィンランド語の難しさとしてとらえられることが多いが、実はそれこそフィンランド語が易しい理由でもある。また、フィンランド語の文法は、一つ新しいことを覚えれば会話力が格段に上がる。きわめて実用的。これは学習の励みになりますよ。

単語構造

外国語習得で一番大切なものは何か。コレ一つ、なんて絞ることなどもちろんできないのだが、あえて選ぶとしたら語彙力だろう。文法知識がゼロで、単語の羅列であってもある程度の意思疎通はできる。語彙が豊富であれば、読書を楽しむ/味わうことは無理でも新聞記事の概要はつかめよう。会話レベルがあがるにつれ、話題にふさわしい言葉を選ぶ必要も出てくる。そうしたときに説得力を与えるのは語彙力だ。これが英語だとなかなかに難しい。なぜなら、英語の高級語彙というのはラテン語に根差すため。
唐突だが、「年輪」ということばを例に出す。樹木の幹に年毎に増えるアレね、と即座に切り株を思い浮かべるかもしれない。文字通りに「年」ごとの「輪」。これをフィンランド語だとvuosirengasという。vuosiは年でrengasは輪なので、直訳だ。英語だとanual ring。ringはともかく、anualの語源はラテン語なのでアメリカ人でも小学生なら意味がわからないかもしれない。いっぽうフィンランド語vuosiやrengasは基本中の基本単語だから、幼稚園児にも理解できる。極端な例かもしれないが、日本語もフィンランド語も日常単語の組み合わせで高級語彙を作る傾向が強い。すなわち、フィンランド語の単語を仮に1000個覚えたとすると、実際には2000~3000の単語を理解できる潜在力が身に付くといえる。ところが英語で2000語を理解するには文字通りに2000個覚えなければならないという図式になる。この割合は適当にあげただけだが、英語の単語力を増やすためにはかなりの努力が必要であることは間違いない。

なるべく簡単に書くつもりだったが想定以上の長文になってしまった。言語の難易度の相対性、フィンランド語の難しさで誤解されている点、フィンランド語学習の面白さ、その過程で得られる副次的効果などは項を改めて記すことにする。

フィンランド語がやさしい言葉であることを世界で初めて証明した本。「なんだ、宣伝かあ」。

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