フィンランド語の「はい=Yes」は無数にある

「いいえ」は人称に応じて6つに変化する

フィンランド語の「はい=Yes」はkyllä(キュッラ)、「いいえ=No」はei、と紹介されることが多い。必ずしもまちがいではないが、正確さにはほど遠いと言わざるをえない。どこがどう違うか。まずは話が比較的簡単な「いいえ」から記そう。

比較的に簡単とはいえ、フィンランド語の動詞についての説明から始めなければならない。フィンランド語の動詞は人称によって形が変わる。たとえば「私は日本人です」はMinä olen japanilainen 、「彼は・・」ならHän on japanilainen、など。英語のBe動詞もI am、You are,、He isと変化するが、フィンランド語だと一~三人称、それぞれ単数・複数の組み合わせで6通りになる。フランス語だとje suis、tu es、il est、あとなんだっけ? ってやつに相当する。

否定語の「ei」も動詞の一種で、人称ごとに6つの形に変化する。したがって「いいえ=ei」と言い切るのはいささか乱暴の感を免れない。とはいえeiは辞書の見出し語であるし、「旅行で使えるフレーズ集」といった簡略表であれば、スペースの都合でそのように記載するのも無理はない。

Kylläは単純なYesではない

いっぽう、「はい」はそれほど単純ではない。まず、Kylläが日本語の「はい(うん、ああ、ええ)」にぴったりと符合するケースというのは、実は限られている。簡略表に「はい」の日本語を一つのせるとしたら、Jooのほうがふさわしい。Kylläが質問等に対する肯定の答えであることは確かだが、「もちろん、その通り、そうですねえ」と相手の発言に同意するニュアンスがあり、ニュートラルなYesではない。英語のof courseほど強くはないが、sureとか I agree に近い感じかな。

たとえば買い物から戻ってきた家人に「卵買ってきた?」などと確認した場合、Kyllä mä ostinと返答されるかもしれない。これは(もちろん買ったよ)というニュアンスだ。あるいは買い物に行くのを渋っている子供に対してKyllä sä menet!と言えば、「当然(あんたは)行くんだよ、行きなさいよ」、という柔らかい命令文を構成する。

また、Kylläは文意を強調する。たとえば、「傘持ってこない日に限って雨がふるんだよなあ」というつぶやきに対してkyllä sitä sattuu(よくあることよ)、あるいは好みの音楽についてsiitä minä kyllä eniten tykkään(まさしくこれが一番好きなんだ)と言ったり、それに対してsen kyllä tiesin(うん、知ってたよ)と話を続けるといった具合。この種の使い方は非常に多い。

さらにはNo en kyllä otaなど、「はい」と「いいえ」が共存する文章さえある。同文の訳は状況によって微妙に変わるが、(フン、受け入れられないね)という感じ。

キュッラ、キュッラ(うん、うん)という相槌が聞こえてきそうではあるが

そう考えてくると、単純に「はい」という場合には前述したJooがふさわしい。もしくはあまり紹介されないようだがNiin。Jooとほぼ同等の意味だが、これは「非常に」とか「このように」などの副詞にも使われる。一例をあげればNiin hyvä!(すごくいい)など。その他の用法は話がずれるので割愛するが、日常会話では「はい」の意味でniinは頻繁に使われている。

使用頻度は若干さがるが、Just(ユストゥ)も肯定を意味する。英語のジャストから推測できるように、「まさしく」、「その通り!」といったニュアンス。

フィンランド語にはこのほかにも「はい」の意味で使うことばがある。無数にある。質問文の動詞を人称を変えて繰り返すのである。
Menetkö sä huomenna Helsinkiin?
明日ヘルシンキ行くの? Menen. (うん)

Soititko äsken muulle?
今電話した? soitn. (うん)

それそれの動詞が「はい」を代用しているわけだ。Jooで答えても構わないが、上記のような受け答えのほうが会話としては自然だ。日本語でも「うん」だけじゃ不愛想に響く場合があるでしょ。それと同じ。

行くの?  行くよ
(電話)した? したよ

フィンランド語を学び始めた時点ではJoo jooを繰り返すことになるだろう。簡単だからね。動詞で切り返すためには、二人称(あなた)のそれを一人称(私)に変化させなければならないので、ちょっとした訓練が必要になる。すぐに慣れるけど。日本語と同じなんだと気づけば理解も早まるだろうし、なにより楽しみが増すではないか。

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